大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和58年(ワ)12710号 判決

原告

宮川豊

(他四名)

原告ら訴訟代理人弁護士

草島万三

荻原富保

被告

株式会社帝国デンタル製作所

右代表者代表取締役

広沢清

右訴訟代理人弁護士

伊丹経治

主文

1  被告は、

(1)  原告宮川豊に対し、金五五万四〇五〇円及びこれに対する昭和五八年一月二一日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を、

(2)  原告小野正宣に対し、金七七万三七六〇円及びこれに対する昭和五七年一一月二一日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を、

(3)  原告石澤正に対し、金二九六万九七三〇円及びこれに対する昭和五七年一二月二八日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を、

(4)  原告長谷川幸雄に対し、金二一八万八四八〇円及びこれに対する昭和五八年五月一日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を、

(5)  原告大山実に対し、金七五万一二〇〇円及びこれに対する昭和五七年一二月二一日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を

それぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

主文第一、二項と同旨の判決及び仮執行の宣言。

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、医療機械、器具の製造販売を業とする会社である。

2  原告らは、次表入社日欄記載の日に被告会社に入社し、退職日欄記載の日に被告会社を自己都合退職した。

氏名

入社日

退職日

宮川豊

昭和四八年九月一一日

昭和五八年一月二〇日

小野正宣

昭和四七年六月九日

昭和五七年一一月二〇日

石澤正

昭和四一年四月二一日

昭和五七年一二月二七日

長谷川幸雄

昭和四三年三月一五日

昭和五八年四月三〇日

大山実

昭和四七年一〇月二日

昭和五七年一二月二〇日

3  被告会社の退職金規定によると、従業員の退職金は退職時の基本給月額に勤続年数に応じ定められた支給率を乗じたものが支給される(第五条)ことになっているが、自己都合退職の場合には、さらにこれに勤続年数区分に応じ定められた一定率を乗じ算出することとなっている(第三条)。

なお、勤続年数の計算は採用出社日より退職日までとして端数ある場合は、六カ月未満は切り捨て、六カ月以上は切り上げるものとされている(第四条)。

ところで、各原告の退職時の基本給月額は、次表基本給月額欄、前述の退職金規定に則り計算した勤続年数は勤続年数欄、各原告の勤続年数に応じた退職金規定第五条掲記の支給率は支給率欄、各原告の勤続年数に応じた退職金規定第三条掲記の一定率は一定率欄記載のとおりである。これらをもとに、各原告の退職金を算出すると退職金欄記載のとおりの金額となる。

氏名

基本給月額(円)

勤続年数

支給率

一定率(%)

退職金(円)

宮川豊

一五八、三〇〇

七・〇

五〇

五五四、〇五〇

小野正宣

一六一、二〇〇

一〇

八・〇

六〇

七七三、七六〇

石澤正

一九四、一〇〇

一七

一七・〇

九〇

二、九六九、七三〇

長谷川幸雄

一九五、四〇〇

一五

一四・〇

八〇

二、一八八、四八〇

大山実

一五六、五〇〇

一〇

八・〇

六〇

七五一、二〇〇

4  よって、原告らは被告に対し、前記退職金及びこれに対する各退職日の翌日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

請求原因事実はすべて認める。

三  抗弁

1  被告会社の退職金規定第三条は、「社員が就業規則第五七条の手続を経て、次の一つに該当する時は第 条及び第 条により退職金を支給する」と定め、被告会社の就業規則第五七条は、「(1)社員が退職しようとするときは、少なくとも一四日以内に、所属長を経て、事由を明記した退職願を提出しなければならない。……(3)管理職にある者は二ケ月以前に届けるものとする」と規定している。

2  原告らの被告会社における役職は、

原告宮川は工作課仕上係長、同小野は開発設計課課長補佐、同石澤は生産部次長、同長谷川は鈑金課課長であった。

3  ところが、原告らが被告会社に退職届出をした日は、原告宮川は昭和五八年一月一〇日、原告小野は昭和五七年一〇月二八日、原告石澤は退職当日、原告長谷川は昭和五八年三月二八日で、以上の原告四名は、右就業規則の定める手続を経ずに退職したことになる。

よって、原告宮川、同小野、同石澤及び同長谷川については、退職金請求権は発生しない。

四  抗弁に対する原告の答弁

抗弁第一、二項の事実は認めるが、第三項の主張は争う。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

二  次に被告の抗弁につき検討する。

被告会社の退職金規定三条及び就業規則五七条には、被告主張のような規定が存することは、当事者間に争いがない。被告は、原告宮川、同小野、同石澤及び同長谷川は、就業規則五七条に定める一定の期間以前に退職届を提出しなかったから、就業規則五七条に定める手続を経ないで退職したこととなり、退職金規定三条の要件に該当せず、退職金請求権を有しないと主張する。しかし、就業規則五七条の規定は、従業員の突然の退職による会社の業務上の不都合を防止するために、退職しようとする従業員に対して、退職希望日の一定期間前にその旨の届出をすべきことを命じたにすぎないものであって、ここに定められた期間を遵守するか否かによって、退職金請求権の存否が決せられるような性質の規定であると解することはとうていできない。従って、退職金規定三条の規定も就業規則五七条の手続を経なければ退職金請求権が発生しないことを定めたものと解することはできない。被告の抗弁は理由がない。

三  よって、原告らの請求は、すべて正当であるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 今井功)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例